草の根から約3000校の学校に導入されるようになったコミュニティスクールとは

草の根から約3000校に導入されるようになったコミュニティスクールとは

この頃、日本の教育で問題が多発しているのはご存じだと思います。幼稚園保育園では、待機児童の問題が叫ばれています。小学校ではいじめの問題や不登校の問題、中学校では更に家庭の問題を含めた貧困・格差の問題。あまりにも多くの問題が積み重なっていて、どこから手を付けて良いのかわからないという状況です。また教師についても人手不足であったりサービス残業・土日の部活動の問題があったりと生徒ばかりの問題ではありません。 この原因は、子どもの問題を学校に押し付けてしまって、そこに住んでいる大人たちがそういった子育ての負の部分に手を付けてこなかったからではないか?という批判があります。そして、その批判を受けて地域ぐるみで子どもを育てようという運動が日本でも始まっています。これをコミュニティスクールといいます。

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コミュニティスクールの歴史。どの様に生まれ発展してきたのか?

コミュニティスクールという言葉になじみがない人もいるかもしれません。コミュニティスクールとは地域の人的・物的資源を教育活動の中に取り入れストおもに、学校の教育資源を地域に開放する学校を意味します。1940年代からアメリカで提唱され、その意識は70年以上たった現代ですら脈々と受け継がれています。日本では戦後すぐにこの発想が取り入れられていたのですが、高度経済成長と個人意識の伸張から薄れていってしまいました。しかし、近年、草の根運動をベースに、再び注目されています。ここでは、三鷹市の草の根活動を紹介しましょう。2000年の前後に、「学校を拠点として地域人材が教育活動を支援する」というNPOが東京都三鷹市に設立されます。この団体は大きく3つの活動を主な活動としています。

・学校の教育活動に関する支援事業

・放課後の活動のコーディネート

・上記の活動を行うための企画

この団体は、当初、学習支援ボランティアを行っていました。そのうちに、学校の授業で先生の説明についていけない子どもたちをフォローアップするボランティアを積極的に行っていくことになります。これを、スタディ・アドバイザーといい、2004年には登録者数が100人を超える大きな団体へ成長していきます。これをきっかけに、学校の授業そのものに何かしら支援をしていこうという団体が各地に生まれだします。更に、ここから学校の授業だけでなく、学校そのものを支援できないかという考え方が生まれていきます。市民の間でも、教育に参加しようとする機運が高まって行ったのでした。

コミュニティスクール、その概要は?

日本のコミュニティスクールという制度は、地域の公立学校の運営に地域住民が参画するというものであり、「地域に開かれた・信頼される学校づくり」の推進役として期待されて設立されています。2004年に「地方教育行政法の改正」がなされ、正式にその活動が認められることになりました。保護者や地域住民が、学校や教育委員会に意見を述べることができ、地域に根差している可能性の高い小学校中学校にはもってこいの仕組みです。基本的に日本では、都内や大都市のごく少数の家庭を除き、小学校中学校は学区と呼ばれる枠の中で選ぶことになります。小学校中学校の地域性は否定できません。しかし、今まではこの地域性に基づく保護者や住民の声というのがなかなか教育に反映されず、そして反映されないから保護者や地域住民の興味が薄れるという、良くない状況が続いていたのでした。 コミュニティスクールを設立した地域では、地域の意見を踏まえた教育活動が展開できています。例えば、放課後や土日の子どもたちの居場所づくりを行ったり、地域のお祭りや商店街のイベントと学校が、或いは街づくりと学校がそれぞれ手を取り合って盛り上げたりしています。

コミュニティスクール、その効果は?

2016年には、全国のコミュニティスクールの数は2806にも上り、このシステムが日本各地に浸透しつつあることがわかります。 このグラフは2015年の文部科学省のデータです。ここでも「子どもの安全・安心な環境が確保された」「地域の教育力が上がった」「児童生徒の学習意欲が高まった」「いじめ・不登校・暴力行為等の生徒指導上の課題が解決した」「児童生徒の学力が向上した」など、今問題視されている小中学校の問題点にしっかりアプローチできている学校が出てきているのがわかります。まだ、確率として50%前後ではありますが、それでも改善の兆しを見せているのは間違いありません。

このグラフは2015年の文部科学省のデータです。ここでも「子どもの安全・安心な環境が確保された」「地域の教育力が上がった」「児童生徒の学習意欲が高まった」「いじめ・不登校・暴力行為等の生徒指導上の課題が解決した」「児童生徒の学力が向上した」など、今問題視されている小中学校の問題点にしっかりアプローチできている学校が出てきているのがわかります。まだ、確率として50%前後ではありますが、それでも改善の兆しを見せているのは間違いありません。

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コミュニティスクールの課題と展望

コミュニティスクールのメリットを強調してきましたが、このシステムが出来上がって15年、やはり課題も見えてきています。まず、地域差が激しいことが挙げられます。先ほどの成果のグラフを見てもわかる様に、成果を感じている地域は100%ではありません。コミュニティスクールを開設して成果を上げている地域は、むしろ教育先進地域と呼べるでしょう。また、2013年に足立区の五反野小学校の統廃合の際にコミュニティスクールの指定取り消しとその時の地域住民とのやり取りを見てもわかる様に、いまだ教育委員会とコミュニティスクールの力関係やコミュニケーションが上手くいっていない地域がいくつも存在します。

しかし、地域住民が子どもたちに対して、学力などを含めボトムアップ的な活動を進めていった結果、地域の課題そのものが解決していくというケースは数多く出てきています。また、地域全体を巻き込む活動は、その地域の社会的ネットワーク、信頼、お互いに助け合いお互いに成果を分け合う態度が何よりも重要であるとされています。これをソーシャル・キャピタルといい、このソーシャル・キャピタルが確立されている地域に住んでいる住民ほど社会的信頼感や人生の満足度が高いと言われています。

コミュニティスクールはまさにソーシャル・キャピタルを生み出していく社会的ネットワークの中心となりえるシステムです。このコミュニティスクールがより深く根付いていく先に、子どもたちだけではなく大人たちまで人生の充実感を得ることが出来る未来が待っているのです。