難民の自立をコミュニティ全体で支援したい バークレーの1951 Coffee

難民の自立をコミュニティ全体で支援したい バークレーの1951 Coffee

1951年7月、難民の定義と権利、受け入れ国の法的義務を定めた「難民の地位に関する条約(難民条約)」が、国連主催の外交会議で採択されました。この「1951」という年号を冠したカフェが、2015年、米カリフォルニア州のバークレーにオープンしました。「1951 Coffee」では、難民をスタッフとして受け入れるとともに、地域社会に対して難民問題の啓発や、雇用の促進などを働きかけています。

 

米国移民法に阻まれる難民の自立

1951年の難民条約は、第二次大戦によって急増した難民の保護の必要性や、これを解決するには国際的な団結が不可欠であるという認識から採択されたものです。しかし難民問題は今日も解決されることなく、特に2015年頃からは、政情が不安定な中東やアフリカからEUを目指す難民が急増。この受け入れを巡っては、ドイツなど積極的な姿勢を示す国がある一方で、米国のトランプ大統領が、特定国からの入国受け入れを停止する大統領令に署名するなど、各国で対応が分かれています。
米国移民法では、合法的な就労や政府からの給付を得るために難民認定を受ける必要がありますが、煩雑な手続きなどその道は険しく、現実には多くの希望者が、就労も支援給付も制限されています。
1951 Coffeeの創業者であるダグ・へウィット氏とレイチェル・テイバー氏は、カリフォルニア州の国際救援委員会(IRC)の元同僚同士。難民危機とも言えるような近年の状況になる前からこの問題に接し、シリア難民の友人が、高等教育を受けているのにもかかわらず、最低賃金の仕事しか得られないなど、米国移民法の理不尽さを目の当たりにしてきました。

 

バリスタの技能を身につけた難民をカフェオーナーに推薦する

5年の間IRCで勤務したへウィット氏は、その後も何らかの形で難民問題に関わりたい、より地域社会に密着した活動をしたいと考えていました。そんな中、自分が関わる教会の牧師から、学生ラウンジが十分に活用されていないという話を聞きつけます。このスペースを、社会的な意義のある場所にしたい。へウィット氏はすぐに同僚だったテイバー氏に連絡を取りました。テイバー氏はIRCに入る前はコーヒー業界に従事していたのです。
コーヒーやお茶を飲む風習は地球上のどこにもある上に、カフェの仕事は技能の習得があまり複雑でなく、言語の障壁も比較的小さいと言えます。2人はこの場所を「カフェ」「職業訓練」「地域社会に対するアドボカシー」という3つのコンセプトをもった拠点として、難民支援に活用したいと考えました。
2015年のオープンに際し、1951 Coffeeではパキスタン、アフガニスタン、エリトリア、ソマリア、ベトナム、パキスタン、グアテマラ、モンゴル、ミャンマーなどからの難民を研修生として受け入れ、40時間の訓練プログラムを実施しました。そこでは、コーヒーやエスプレッソの淹れ方、衛生管理、顧客サービスなど、国際的なコーヒー業界団体の基準に合致したバリスタの技能を習得することが可能で、その後も継続的に修了生を輩出しています。
修了生は1951 Coffeeで働きながら就職活動を行い、他のカフェなどで定職を得ることに成功しています。
へウィット氏は「私たちはカフェのオーナーと話をして、うちの修了生たちを推薦しています。そして彼らの人柄や文化、潜在能力などをお伝えするんです。新しくやってきた難民が、誰かからの推薦状を得るというのは、とても大変なことですから」と言います。

 

コミュニティへの理解を促す基地として

1951 Coffeeは、色々な意味で品質を極めたカフェと思わせられます。扱うのは、最近日本にも上陸して注目され始めているVERVE社のコーヒー、もちろんフェアトレード(倫理的調達)品です。ネパールやアフガニスタンの人たちからアドバイスを受けたチャイも提供しています。
レイアウトはゆったりとしており、ベビーカーや車いすで利用できるエレベーターで地下駐車場にもアクセスができます。
そして店内の意匠は一見、西海岸らしい洗練されたテイストでまとめただけのものに見えますが、そこには難民の人々の置かれた苦しい状況が、ポップなイラストを交えて紹介されています。へウィット氏は言います。「お客さまはここに来るたびに、ほとんどの人が知ることのない、非常に大切な情報を知ることになります。そして難民というのがどんな人々なのかを、目の当たりにすることになるんです」。

2017年8月、嬉しいニュースがありました。スターバックス財団が、1951 Coffeeに対して、63,000ドルの助成を行うと発表したのです。教会の学生ラウンジで始まった1951 Coffeeは、力強い支援者を得て、次なる都市での訓練プログラムを始めようとしています。
政治で行き届かない弱者支援を「カフェ」「職業訓練」「地域社会に対するアドボカシー」というコンセプトで繰り広げる1951 Coffeeからは、他分野、他地域での活動でも学ぶものが多そうです。