弁護士ならではのスタンスで、 市民と政治家の「中二階」でありたい。

弁護士。

倉持 麟太郎(くらもち・りんたろう)

弁護士としての職務をこなす一方で、メディアでの発言、政策提言に向けてのロビイングや、憲法カフェなど一般市民の人たちと語り合う場にも積極的に参加している倉持麟太郎さん。

取材を行ったのは「テロ等準備罪」の法案が国会で可決された当日で、「明け方まで参議院にいました」とのこと。まさに国を司る現場に、グイグイ入り込んで活躍されている様子が伝わってきました。「法の専門家として、市民と政治をつなぐ『中二階』になりたい」と熱く語る倉持さん、その活動にかける思いを伺いました。

―本業の弁護士のかたわらで、メディアで発言をするなどご活躍です。

倉持さん:本職は、事務所のクライアントである一般企業の、契約書や労務管理、コンプライアンス制度設計など、企業法務です。

法曹界を見ていて感じるのですが、私の本職の「ビジネスロイヤー」という人種がいて、それに対する形で「人権ロイヤー」といった人たちがいる。これらは互いの立場を相いれないものと思っている節があります。実際、既存の“人権派”は、ロイヤーというより活動家です。私の興味分野である憲法についても、いわゆる原理主義的な護憲派も多く、憲法論議の妨げとさえ言えます。

そのビジネス分野と人権分野の壁を壊したいという強い思いがあります。企業法務を扱う「四大事務所」への就職が最高という目に見えないヒエラルキーを意識している人が多く、特にそういう人たちは人権を語る弁護士とは一線を画している感は否めません。

自分たちで目に見えないヒエラルキーや土俵を策定してしまい、無意識のうちに自身の仕事や居場所が偏る傾向があるんです。こういう業界内の無意味な壁を飛び越えたい。ビジネスを語れて、憲法上の権利や人権も語れる、そういう存在を目指しています。

―憲法研究者から弁護士へ、そして現在のような活動へと裾野が広がっていった経緯は?

倉持さん:高校の頃から法律、特に憲法に関心があり、大学は法学部に進みました。そこで学んだのが、まさに日本国憲法97条にあるように、「過去幾多の試練に」耐えた権利、そして、それを獲得した人類の共生への知恵とそのプロジェクトが憲法には詰まっています。近代市民社会において、多様な価値観を有する人間が共生するために、社会の最小単位に措定していたのが独立していて人格的に対等な「個人」でした。人種も道徳観も年齢も性別も関係なく、皆が「個人」なのです。その「個人の善き生」をどのように構想し、そして、そのために国家というもののグランドデザインをどう描くのか、ここに憲法学のダイナミズムをみました。すっかりはまってしまって、そのときの指導教授であった駒村圭吾先生の語る憲法論にもほれ込んで、憲法研究者を目指そうと漠然と思っていましたね。

しかし、研究者というのは机上での研究が中心の仕事です。駒村先生に教えてもらって、遠藤比呂通先生という憲法研究者に接する機会がありました。講演会場で日雇い労働者の人たちに「俺たちに権利なんかない」と詰め寄られたことをきっかけに、救済や権利の実践に関わりたいと自身がまず日雇い労働を経験し、その後、一転、憲法研究者としての前途洋洋たる地位を捨てて弁護士に転身されたんです。

その遠藤先生が、研究者としての最終盤の業績として「自由とは何か」という論文集の中で、研究者のいる世界と、「果て無く続く物語(Never ending story)」の作中のパラレルワールドである“ファンタジーエン”を引き合いに出し、「研究者はとかくファンタジーエンにとどまりがちだが、権利実践のためにはファンタジーエンにいてはだめだ」という趣旨のことをお書きになっていたのです。それを見て私は、「現場の権利実践に奉仕しよう」と決意したのです。

私は、人とのコミュニケーションや人間観察が好きですし、得意なので研究者として働くよりも、現場で生身の人間と関わっていきたいと思うようになりました。それからロースクールに行き、弁護士になりました。

当初は雇われ弁護士で、「憲法カフェ」など人々と交流する場に出向くようになったのは、余裕の出てきた2年目くらいからですかね。そういう所に出入りしていると、人のつながりというのが生まれ、「こんなヤツがいるよ」なんて情報が、雑誌や新聞の記者の耳に入ったりするんです。そこから選挙特番に出演するきっかけができて、ジャーナリストの人とつながりができて…といった調子で、現在の状況になっています。

―「憲法カフェ」では、どんな話がされているのでしょう。

倉持さん:「憲法と法律ってどう違うの?」「今の内閣あんなことしちゃっていいの?」とか、素朴な疑問を持った人たちなんです。現代は社会に対して「もどかしさ」を持っている人が多いと感じますね。大学に行くほどではないけど、知りたい、教えてほしい。だからこういう場所に人が集う。私もそれに応えたいと思っています。

来る人たちには「皆さんができることは、あなた方の声をメディアに直接伝えることですよ」と伝えています。視聴者からの反応があると、企画の扱いが全く変わるんですよ。マスコミも政治家も孤独なもの。そこに1本の電話でもいい、ファックスでもいいから、市民の生の声が入れば後押しになるんです。

よく私は自分のことを「中二階」と称しているんですが、市民と政治をつなぐ役目、架け橋になりたいと思っています。政治家に対してロビイングを行う時も、こういった生の声を知っている「現場感」があるとなしとでは、言葉の強さが全然違う。説得力につながります。

―政策に対するロビイング活動も、積極的になさっています。 

倉持さん:周囲からは「いつ出馬するんだ」と言われますが(笑)、政治家は党派性がある時点で活動に制約が出ますから、私のスタンスと違います。ニュートラルな「法律専門家」だからこそ、超党派で色々な人に同時多発的にアプローチが可能です。弁護士という法の専門家の立場だと、党派を超えて誰しも「とりあえず聞いてやろう」と聞く耳を持ってもらえますね。

昨年5月、1ヵ月ほどアメリカに滞在して、外交防衛問題について色々勉強してきました。この時に強く感じたんですが、ワシントンでは政治家以外に、シンクタンクや、議会スタッフ、秘書、登録ロビイスト、等々、研究者兼公務員のような人々もいて、政策形成に携わるプレイヤーがたくさんいるんです。議会の周辺にいる人が、うまい具合にチェック&バランスの機能を果たしていて、うらやましいと思いました。

現在、私の周辺でも温めているプランがあります。国会では年内にも改憲案が出されると言っていますが、野党の対案を待つだけでなく、自分たち、特に70年代生まれ以降の若い世代で憲法について話し合い、提案することを考えていきたい。護憲だ改憲だというだけでなく、どこに歪みがあるのかとか、何なら許容できるのかとか、そういうリアリティある議論を楽しく、ワクワクしながらやっていきたいんです。「これはちょっと無視できないぞ」というメンバーを集め、楽しそうな集団を目指しています。指導教授の駒村先生がよく話しているのですが、アメリカ憲法制定当時、建国の志士たちが、反対派を論駁するために「ザ・フェデラリスト」というペーパーに、憲法の各論点について、主張を展開しました。これは200年以上たった今でも、憲法制定という行為の緊張感やダイナミズムをリアルに伝える白熱の書です。果たして現在、与野党ともに、このフェデラリストを刊行したJ・マディソンやA・ハミルトン、そしてJ・ジェイのような人がいるでしょうか。私は、民間の立場から、フェデラリストのような迫力と、エキサイティングな提案をしていきたいと思っています。

―今日通過した「テロ等準備罪」ですが、この法律によって、それこそこのような様々な活動や草の根活動などに、影響はないんでしょうか。

場合によってはあるでしょうね。計画しているというだけで捜査対象になるわけですから、それを把握する目的で監視社会に近づくんじゃないかと思います。実際に逮捕者が出るようなことはないにしても、情報を管理収集されたりするかもしれませんし、そうなるかもという意味で萎縮効果もあるでしょう。

「こういう危険性があるから、管理を強化しますよ」と然るべきプロセスで通った法案であれば、それでいいと思いますが、今回は対象となる人や組織の定義、解釈が途中で変わっていった。それをもっともそうな大儀を掲げて言い訳したり、隠蔽したりして通してしまったことに、一番の問題を感じます。

今後も、我々専門家、学者、マスメディアと、今までにない連携をはかって、私の世代にしかできない提案をどんどんしたいと思っています。最後は楽観的でいることが大事だと思っていますが、きっとこの国は10年後にはとてもよくなると、まったく根拠のない確信をもっています。そのために、まったくあらたな枠組みを提示していきたいと思っています。

―最後に読んでいる方へのメッセージと、今後のご自身のビジョンについてお願いします。 

政治家にならなくても、世の中を変えていくことができる、ということを強く意識してほしいと思います。先ほども言った通り、むしろそれ以外の選択肢の方がパワーを発揮する場合もある。

そんな中で、私は法の専門家という立場を活かして、時に架け橋として、時に翻訳家として、市民の皆さんと政治家との間の「中二階」的なスタンスで、今後も活動を続けていきたいと思っています。

倉持 麟太郎(くらもち・りんたろう)

1983年1月16日生まれ、東京都出身。慶応大学法学部法律学科卒業、中央大学法科大学院修了、弁護士。自身の事務所「弁護士法人Next」で企業法務案件に当たる。

2013年7月、テレビ神奈川の参院選特番に出演したことなどを契機にメディアから注目され、東京MXテレビの「モーニングCROSS」レギュラーコメンテーターや、朝日新聞のデジタルメディア「WEBRONZA」、小林よしのり氏の「ゴー宣道場」などでレギュラー執筆を行っている。

衆議院の地方公聴会で参考人として安保法案に関する意見陳述や、自ら法案を作成してロビイング活動を行うなどのかたわら、憲法カフェで市民との対話を持つなど、多方面で活動している。