一人一人が当事者意識を持ってアクションを―。 そのための「種」をまく

東京MX「モーニングCROSS 」(メインキャスター)

堀潤(ほり・じゅん)

当事者意識を持って社会と関わることを草の根的に広げたい―。元NHKアナウンサーでフリージャーナリストの堀潤さんは、市民参画型動画ニュースサイト「8bitNews」に引き続き、今年、新しく「GARDEN Journalism」を立ち上げました。改めて8bitNewsについてお話をお伺いするとともに、「良いことをしている人達に、発信力を授けるプロジェクト」だというGARDEN Journalismについて、取り組みに込めた想いなどインタビューしました。

■一次情報を当事者が直接、発信する

―8bitNewsを立ち上げたのはどうしてですか?

堀さん:一番の目的は、当事者意識を持った人が増えてほしい、ということです。

NHKのアナウンサー時代、さまざまな報道現場にいて、市民の方たちからは「なんで政治は…」、「なんで企業は…」、「なんでマスメディアは…」など、批判の声をたくさん聞いてきました。その声を伝えることが、社会を変える原動力になると信じて仕事に取り組んできたわけですが、もっと速いスピードで世の中を前進させるには、別のやり方が良いのかもしれないと思うようになりました。

たとえば何か政治の不祥事が起こったとき、その政治家が「どうなれば良いと思いますか?」、「どうするべきだと思いますか?」と街中で聞けば、「罷免されるべき」とか「批判するほどのことではない」とか、賛否両論いろいろな声が出てきました。でも、もし「あなたならどうしますか?」と問われたら、「えっ、自分が?」と一気に視点が変わり、当事者意識を持って考えてくれるようになったからです。

そこで、さらに一歩踏み込んで、市民が自分でニュースを伝える形にすれば、撮影のためにレンズをのぞく行為そのものが主体的だし、動画の製作過程でさまざまな関わりや意識変化が生まれるのではないか。そう思って立ち上げたのが、8bitNewsです。

―どのような動画が投稿されていますか

堀さん:サイトをリニューアルして3年半が過ぎ、投稿動画は1,500本以上、投稿者として登録している人は約150人になりました。投稿されているのはスクープ映像的なものではなくて、「私の関わっている団体では…」「私の地域では…」といった主体的な内容が中心。ほかにも、選挙の候補者に直接インタビューしてみたとか、障害のある方が自分の気持ちを語るとか、まさに一次情報を直接、当事者が発信するものになっています。投稿者の方たちも、自ら社会に課題を投げかけた実感を持ってもらえたのではないでしょうか。

―動画投稿によって、当事者意識を持つきっかけになるんですね

堀さん:たとえば、もともと僕のtwitterにコメントをよく残してくれていた女性がいます。当時、ちょうど8bitNewsの立ち上げ期だったので、ご自身でも取材してみませんか、方法が分からなければサポートしますから、と提案させてもらいました。

それまで彼女は動画発信をほとんどしたことがなかったのですが、8bitNewsのワークショップに何度も参加し、ご自身でも試行錯誤を重ねて、だんだん発信する楽しさを得ていったようです。同時に、情報発信の難しさといったジレンマも経験し、メディアリテラシーを自ら体得していきました。

―投稿された動画を拝見しましたが、とても分かりやすい内容でした。

堀さん:先日、110年ぶりに刑法性犯罪が改正されましたが、改正実現に向けたキャンペーンの一環で、署名集めの啓発動画を作成するときにも彼女は編集や構成に関わりました。この動画の再生回数は2万回を超え、署名も目標以上の数が集まったうえ、実際に法律が変わる成果を成し遂げました。

彼女が、今や社会を動かす一つの原動力にまでなっているのは8bitNewsの大きな成果だと感じています。

■公益事業者の活動を専門に扱うメディア

―今年、立ち上げられたGARDEN Journalismについて教えてください。

堀さん:2年ほど前から、すでに草の根的なアクションを実行している方たちを応援する仕組みについて考えるようになりました。たとえばLGBTs、障害者、国際的人道支援、貧困問題、教育格差是正など、多岐にわたる社会問題に向き合っているNPOやNGOなど公益事業者の皆さんは日々、トライ&エラーを地道に繰り返しながら活動されています。

それなのに、このような活動が日々のテレビニュースで取り上げられることはほとんどありませんし、当事者の方々が情報発信する余裕もありません。それならば公益事業者の方々の活動を専門的に扱うメディアを作ろうと立ち上げたのが「GARDEN Journalism」です。

―具体的にはどのようなメディアなのでしょうか

 堀さん:「育てたい種」として、被災地支援や子育て支援、国際人道支援など、それぞれの課題に取り組んでいる団体を紹介しています。僕たちはテレビチームでもあるので、映像取材での情報発信にも力を入れています。

8bitNewsと同様、具体的な目標は、一人一人が当事者意識を持ち、アクション起こすことです。そのためGARDEN Journalismのサイトではアクションモデルとして、プロジェクトごとに「取材したい」、「寄付したい」、「参加したい」、「共感する」という4つのボタンを作りました。プロジェクトの記事を読んだ人に、自分なら何ができるのか、常に考えてもらう仕組みです。一人一人のできることで参加し、小さな種を守り育てるようなジャーナリズムを提案できたらと思っています。

また、すでに大きな伝える力を持っている人たちにも協力を仰ぎ、「GARDEN Journalismジャーナリスト」として発信を支援してもらっています。

―GARDEN ジャーナリストの方々の力も大きいようですね

堀さん:たとえば健康社会学者で、気象予報士の河合薫さんは、宮城県石巻地域で高齢者や障害者の送迎サポートをしているNPO法人『移動支援Rera(レラ)』を取材したいというので、僕も現地へ一緒に行ってきました。この取材レポートはGARDEN Journalismにも掲載する予定ですが、河合さん自身が連載を持つ『日経ビジネス』や、パーソナリティーを務める文化放送のラジオ番組でもすでにReraの活動について紹介してくれています。

ほかにも放送作家のきたむらけんじさんが、J‐WAVEで手掛けている番組にGARDEN Journalismで取り上げた団体の関係者をゲストとして呼んでくれています。GARDEN Journalism以外のメディアでも活動を紹介する機会が増えているのはありがたいです。

また先日は、病児保育の専門家であるフローレンスの駒崎弘樹さんが、外国にルーツを持つ子どもたちの教育支援を行っているNPO「青少年自立援助センター」代表の田中宝紀さんと対談しました。それぞれに活動するNPO同士が情報共有して、新しい知恵を発信していく様子はとても興味深くて、これからもこのような試みを仕掛けていきたいなと思っています。

―リアルイベントも重視されているとお聞きしました。

堀さん:たとえば日本国際ボランティアセンター(JVC)と講談社『クーリエ・ジャポン』、そしてGARDEN Journalismがコラボして、2017年2月に「南スーダン現地派遣職員 緊急報告会」を開きました。JVC単独のイベントでは、なかなか参加者の広がりが見られなかったのですが、このようなコラボ企画にすることで当日は200人ほどの参加者が集まり、メディアも10社ほどが取材に来ました。

開催時はちょうど南スーダンでのPKO自衛隊の「日報」問題が連日ニュースで大きく取り上げられていた時期でした。報告会では、10年にわたってスーダン、南スーダンに駐在して支援を続けてきたJVC人道支援/平和構築グループマネージャーの今井高樹さんから直接、現地の様子を聞けることに多くの人が関心を持ってくれたのだと思います。

―新しい試みですね。

堀さん:僕自身も、GARDEN Journalismを通じて、今まで出会う機会のなかった草の根的な活動に触れられ、どんどん新しい出会いが広がっています。社会課題に向き合っている方々を取り上げようと思っても、いきなりカメラを向けるのが難しいようなセンシティブな現場も多いのが現状です。その点、団体の方たちからぜひ取材してほしいと言ってもらえるのはありがたいです。

先ほどお話した、クーリエ・ジャポンとJVCとのコラボ企画の一環で、4月にはパレスチナ・ガザ地区を実際に訪れる機会に恵まれました。これはJVCのメディアスタッフとして入ったので、現地の人たちとのコミュニケーションもスムーズに行えました。NGOと一緒になったからこそタッチできた世界であり、ジャーナリズムと公益事業者の協働はもっとあってもいいと思います。

■半世紀後の変革を期待して

―今後、目指すものについて教えてください。

堀さん:TOKYO MXのニュース番組『モーニングCROSS』では、週に2本は必ず8bitNewsに投稿された映像がそのまま流れる仕組みを作りました。僕が目指してきた「パブリックアクセス」、すなわち「電波を国民に開放する」という流れができてきたと思います。

一方で、メディアがさらに多様であるためには、もっと長い放映時間が必要です。たとえば地上波で24時間ニュース専門のチャンネルを作るといったことは目指していきたいと考えています。

だって「なんだ、マスコミは」みたいに言われるのは、僕としては悲しいわけですよ。現場の取材者やディレクターは、あともう少し放映時間が長ければちゃんと伝えられたのに、とか、この話題も取り上げられたのに、といったジレンマを抱えています。そのフラストレーションを解くだけでも、日本のマスコミは大きく変わると思います。

マスコミの関係者の中にも、視聴率や読者獲得といった数値を度外視して、社会のためになる話題を取り扱うべきじゃないかと考えている人もいます。実際、一緒に何かやりませんか、と声をかけてくるマスコミの人も増えました。

また、社会問題の話題を今まであまり取り上げてこなかった大手ニュースメディアから、GARDEN Journalismの記事の転載を掲載させてもらえないか、という話もあります。マスコミも内側から変わっていく機運が出てきたのは、手ごたえを感じているところですね。

何と言っても、マスメディアは社会の鏡。マスコミが変われば社会が変わり、社会が変われば政治も変わります。このような社会全体の底上げには10年、20年、もしかしたら50年ぐらいかかるかもしれませんが、地道に自分ができることに取り組んでいきたいです。

何より、公益事業者の皆さんは、社会が見向きをしようとしまいと、メディアが取り上げようと取り上げまいと、粛々と、自分の役割を果たしています。その姿に最大の敬意を払い、皆さんのおかげで起きている小さな社会変化や前進したことについて、きちんと伝えていきたいなと考えています。

堀潤(ほり・じゅん)

1977 年生まれ、兵庫県出身。立教大学文学部ドイツ文学科卒業後、2001 年NHK 入局。アナウンサーとして「ニュースウォッチ9」、「Biz スポ」キャスター等、報道番組を担当。2012 年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、2013 年4 月1 日付でNHK を退局。現在は、ジャーナリスト・キャスターとして、東京MX「モーニングCROSS 」(メインキャスター)、J-WAVE「JAM THE WORLD」など、独自の取材や報道・情報番組、執筆など多岐に亘り活動している。2017年に「GARDEN Journalism」を立ち上げた。著書に「僕らのニュースルーム革命」(幻冬舎)、「僕がメディアで伝えたいこと」(講談社)、「変身~ Metamorphosis ~」(角川書店)。

8bitNews http://8bitnews.org/

GARDEN Journalism  https://gardenjournalism.com/