2014年にスペインで行われた欧州議会議員選挙では、その年に結党されたばかりの左翼政党「ポデモス」が、54議席のうち5議席を獲得するという大勝利を収めました。ポデモスは、国民党や社会労働党といった既成政党が行ってきた緊縮財政こそが、貧富の差や高い失業率、国民を苦しめる債務問題を起こしているとし、真の民主主義による改善策を打ち出しています。クラウドファンディングによる資金集めや、サークルと呼ばれる集会を中心とした政治運営など、既成政党とは異なるユニークな政治手法にも注目が集まっています。
二大政党制の限界と怒れる人々によるM15
ポデモスの生い立ちを語るには、2011年5月15日にマドリード中心部にあるプエルタ・デル・ソル広場で行われた抗議集会までさかのぼる必要があります。この日、格差拡大や腐敗といった現状に抗議する人々がデモ活動を行いました。デモが終わった後も100名ほどが広場に残ってキャンプを張ったのですが、やがて活動はスペイン全土に広がります。この動きが、9月のウォール街や、11月のロンドンなど、のちに世界中で行われることになる一連の「オキュパイ(占拠)活動」の発端であるとも言われています。
5月15日(M15)に集合した人々は「インディグナドス(怒れる人たち)」と呼ばれています。
彼らは何に怒っていたのでしょうか。2008年に不動産バブルが崩壊し、失業率は25%ほどにまで悪化、とりわけ若者の失業率は50%にも上りました。スペイン独自の住宅ローン制度のために、人々は住む家を失い、負債だけが残りました。
70年代に独裁政権が終焉し、右派・国民党と左派・社会労働党の二大政党制が続いていましたが、結局どちらも国民のことなどは考えていない、銀行家や富裕層だけが儲かる仕組みじゃないか―。既成政党に対する人々の怒りが、M15のプエルタ・デル・ソル広場に終結したのです。
2014年、ポデモスの誕生と躍進
M15以降も既成政党による政権が続きました。このままでは政治に民意を反映することができない―。現状の議会制民主主義に対する人々の不満は募り、2014年1月、30人の知識人がポデモスの原点となるマニュフェストに署名を行いました。そして署名者ではなかったものの、当時大学の政治学者であり、政治番組の司会者を務めていたパブロ・イグレシアス氏が、ポデモスのリーダーになることが発表されました。
2014年5月の欧州議会議員選挙で、ポデモスは54議席中5議席を獲得しました。結党からわずか4ヶ月で第4政党となり、2015年と2016年に行われた総選挙では、第3政党へと躍進しました。党首となったイグレシアス氏は「ポデモスの成果は、二大政党によるチェスのような政権争いを変えたこと。自分たちの使命は民主主義を守ることで、右派左派は関係ない。市民がはっきり問題意識を持ち議論できるよう全力を尽くす」と語っています。
ポデモスの草の根活動
ポデモスのホームページより。たくさんのサークルが地図上に示されている。カーソルを置くと、サークル名とフェイスブックへのリンク、メールリンクが表示される。地図には、スペイン国外にも欧州、北米・中南米にサークルが存在している。
ポデモスとは「私たちはできる」という意味で、その活動のスタイルは既成政党とまったく異なるユニークなものです。彼らの活動を支えているのが「サークル」と呼ばれる集会組織です。
現在このサークルは国内外に1200以上あり、地域別に活動するものと、特定のテーマに関するものという大きく2種類のタイプがあります。数名のものから、市全体をカバーし、何百人というメンバーを擁するものもあります。ポデモスの運動に直接関わっていない人でも、自分の関心があるテーマのサークルに参加して発言することができるので、政治活動に参加するというよりも、地区のコミュニティ活動を行うイメージに近いかもしれません。
またポデモスは、コミュニケーションや支持者獲得の手段として様々なツールを活用しています。政治資金はクラウドファンディングで集められ、各サークルの連絡手段はフェイスブックを活用しています。You Tubeでポデモスを検索すれば、「日本の方へのポデモスの紹介」という公式動画があるのには驚かされます。
地方のサークルでは、こういった新しいツールを敬遠する人に配慮し、説明会を開催したり、インターネットカフェを巻き込んでネット環境を無料で提供するなどの活動も行っています。
今やスペインの第3政党になったポデモスが、これから成長して行ったときに、市民参加型の草の根活動と党組織運営とがどのように有機的に連携し、党の使命である「民主主義を守ること」を実現していくのか。注目したいと思います。