2018.02.07

【イベント報告】「今、草の根から社会を変えていくには何が必要か」~NPO法施行20周年記念&グラスルーツスクール開講記念シンポジウム~

 

 

2月1日、港区の日本財団ビル会議室において、「今、草の根から社会を変えていくには何が必要か」と題し、NPO法施行20周年記念ならびにグラスルーツスクール開講記念のシンポジウムを開催しました。大雪のため日程が急きょ延期となりましたが、約30名の方が来場されました。市民活動の第一線で活躍されている方々による講義とディスカッションは、非常に具体的かつ前を見据えた内容で、現在活動をしている方や、今後何かを始めたいと考えている方々に、大いに気付きを与えてくれるものだったと思います。

 

1.登壇者

・鈴木寛氏(文科省補佐官/東京大学教授/慶応大学教授)

・藤沢烈氏(一般社団法人RCF代表理事)

・松原明氏(NPO法人シーズ創業者/グラスルーツスクール学長)

・池本修悟氏(一般社団法人ユニバーサル志縁センター専務理事/グラスルーツスクール運営委員)

・谷隼太氏(NPO法人グラスルーツジャパン代表理事/グラスルーツスクール事務局長)

 

2.内容主旨

(1)問題提起「公共領域の課題について」 谷隼太氏

世の中を良くしたいという市民セクターの人たちは増えてきたが、自治体や省庁の予算が100兆円近くあるのに対し、これらの規模は5000億円程度。自治体や省庁が手の届かない部分を支える形で様々なサービスを提供しているが、一方で公共領域にも大きな課題が山積しているというのが現状。一般の生活者や課題を抱えている人の意見が政治や政策に反映されずらかったり、世代間格差を広がる一方で若い人たちが投票に行かなかったり。また議会に多様性がないことも問題。そしてこのような課題の改善策・解決策はあるにも関わらず、進んでいない。

これらの課題・原因はイデオロギーに関係なく事実。放置せず、草の根からもっと動いて変わっていくにはどうしたら良いか。今日は皆さんにその答えを導いてもらいたい。

(2)基調講演「NPO法施行から20年~これまでの20年と現状について~」 鈴木寛氏

NPO法前夜の昔話として、圧倒的に大きな出来事は1995年の阪神淡路大震災。当時自分は通産省から出向して山口県庁に勤務していたが、実家の神戸で父親が被災した。有事の際に人の役に立ちたくて役人になったのに、自分は職務を離れることができず、親を助けてくれたのは山口県にいた友人たちだった。現地では学生ボランティアとパソコン通信が大いに活躍したのもセンセーショナルだった。その後、大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を立ち上げソーシャルプロデューサーを育成することに注力し、現在23年目を迎えている。

NPO法立ち上げに際しては、松原さんたちが市民サイドで頑張っていて、自分は新党さきがけの法案の条文を書く立場で参画した。政治家の動かし方などは熟知していたので、アドバイスしたりした。また中央省庁の政策形成過程を見える化するための勉強会も立ち上げた。「密教」と言われた霞が関の動かし方を世の中に明らかにする一助になれたと思う。

(3)事例紹介「コミュニティオーガナイジングを活用したアドボカシー」 池本修悟氏

本日紹介したいのは社会を変える一つの手法として「コミュニティオーガナイジング」。マイノリティや困難を持った人たちが、仲間とともに課題解決していくものだが、これはセンスの良いリーダーが自然にやるのでなく、きちんと方法論に基づくもの。ステップとしては、①同志(課題に直面している当事者)は誰か?②彼らの求める変革はどのような変化を生み出したいのか。③そのためにどのようなパワーを生み出す必要があるのか。④そのためにどんな戦術が必要なのか。⑤具体的なタイムライン という順序で考える。過去には黒人の公民権運動や、北九州の婦人会が大気汚染を研究した活動などもあった。最近では、岩手県で夏に行われていた成人式を冬に行いたいと、若者自らがチームを作って活動し、陳情だけでなくパワー分析なども行い、結果を勝ち得た事例がある。パワーを溜め、キャンペーンでアピールして仲間を増やし、またパワーを溜めてアピールするということを進めながらやっていく。このような技術もあるということを知ってほしい。

(4)事例紹介「自治体と連携した復興支援」 藤沢烈氏

RCFでは自治体と連携して、東日本大震災の被災地で復興支援を行っている。

岩手県釜石市では祭りを開催した。復興の初期はインフラ復旧から始まり、それは行政の得意分野だが、人々が「復興感」を得るには人とのつながりが不可欠。象徴的な取り組みとして祭りを開催することで、それを高めることに貢献できた。

福島県双葉町は帰宅困難地域で、町民は現在も41都道府県に分散避難している。ここではメディアを発行した。役場の広報誌では踏み込めないような町民の声や、避難している人たちの顔写真を載せるなどして提供している。宮城県女川町では地元企業や町役場とも連携して、産業復興支援を行った。

また震災とは違うが、東京の文京区で所得の少ない世帯に「子供宅食」を提供している。食べ物を通じて家庭を支援するため、現場の課題を細かくつかむことが出来ている。

4つの事例に共通しているのは、当事者だけでもNPOだけでも解決はできず、行政と連携することが大切という点。互いを補完しながら事業を行うのが大変重要と考えている。

(5)パネルディスカッション(池本氏、鈴木寛氏、松原氏、モデレーター谷)

 「今、草の根から社会を変えていくには何が必要か」皆さんの答えを伺いたい。

池本 結局、信頼関係のある者同士しか物事を変えられないと感じているので、いかにそういう仲間を作れるかということに尽きると思う。NPOの課題としてはNPO同士がうまく連携できていない。そのために必要なのは対話で、自分の思っていることを腹を割って話し、語り合うことで関係性や温度感というのが高まっていく。そういうことが大事だと思う。

藤沢 現場に足を運び、現場を知った上で問題を考えることが大事だと思う。子供にお米を届ける際にお菓子を同梱したら「お陰で友達を家に呼ぶことができる」と想像以上に喜ばれた。NPOの強みは行政以上に現場を知っていること。システム化が進んだとしても、現場に立ち返らなければならない。

松原 社会を変えていく時には、現場と社会の仕組みの両方を知ることが大事。現場には当事者やステークホルダーがいて、彼らが抱えているものや対峙しているものを知ることが大事。また省庁がどう政策形成をするかというツボの押し方があり、世の中はそういう仕組みで動く。草の根活動をするには、人の思いと仕組みとの両方をきちんと知る専門性、これをきちんとやる技術を得ることが必要。

鈴木 1つは松原さんの言うようなことを理解してマネージできるソーシャルイノベーターを養成すること。2つ目は、日本がずっとやってきた減点主義の人づくりからの脱却。マークシートやひっかけ問題が生み出すのは、クレーマーと炎上文化である。白い答案用紙に自分の意見を書くエネルギーが大事。入試を変えることで日本人のマインドセットを変えたいと思っている。3つ目はメディア。バッシングや炎上でなく、変えようと挑戦している人をエンカレッジする、そんなメディアを作ることが大切だと考える。

藤沢 官民連携を行う場合、行政は議会への説明責任があるので、どうしても作られた仕様書通りにしか運べない。そこでコンソーシアムのようなものを設置し、行政もその一員にして、そこで合議すれば内容を変更できるようにしている。変化に対応し、本当に現場の助けになるような政策を実行することが大変重要と思う。

松原 NPO法前の20年は行政を変えなくてはならなかった。その後の20年は様々な制度、ツールが整ってきた。今後20年はこれを使いこなす時期。今からNPO法の真価が問われる。課題を小さく分解し、可能なところから一つひとつ変えて、やがて大きな課題を変えていくなどといった技術を、グラスルーツスクールでは伝えていきたい。

 市民サイドからも法律を変えることが可能になってきているが、まだ一部のNPOだけが我流でやっている印象。これをきちんと体系化することをスクールではやっていきたい。

池本 今の世の中は、穴が空いたバケツからどんどん水が漏れているような状況。仲間を集め、うまい方法で早く穴を埋めることが必要。スクールでは、松原さんや鈴木さんが考え培ってきたようなことを、一緒に伝えていければと思う。

鈴木 日本政府は2022年くらいには壊れると思っている。そうなったら自分たちはどうするか。自分の幸せは自分で作るという日本社会にならないとダメ。小さな成功体験を持っている人に近づき、行けると思ったことを自分もやってみる。その積み重ねである。

松原 政府が機能不全になるというのに同感。その中で社会に必要なのは、政府・企業・コミュニティのソリューションの合わせ技であり、それはNPOから働きかけるしかない。

皆さんに知ってほしいのは、1つ目は社会は自分たちで変えられるということ、2つ目はそれには技術があり、やり方さえ学べば誰でも実行可能であるということである。

 

(以上)

 

 


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